クリニック(医業・歯科医業)への経営支援について
医業経営者(ドクター)の皆様、日々の献身的な医療業務、誠にお疲れさまです。
我が国では、少子化が進行し、2008年には日本の総人口は7万9000人減少しましたが、高齢者(65歳)以上は増加しています。65歳以上の高齢者人口が総人口に占める割合は、2010年の23.1%から2020年には29.2%となり、2055年には40%を超える見通しとなっています。その一方、15歳から64歳までの生産年齢人口は年々減少し、生産年齢人口の割合は、2055年には51.1%にまで低下すると予想されています。これにより、高齢者と生産年齢人口の比率は、「1人の高齢者を2020年には1.9人で、2050年には1.2人で支える姿になる」と想定されています。
このように高齢化が進行するということは、患者、要介護者が増加すること示しています。一方、生産年齢人口の割合が減少するということは、医療費の担い手が減少するということを示しています。現在の医療政策の最も大きな課題は、医療保険の担い手の減少により、医療保険財政が逼迫する環境下において、増加する患者、要介護者をどのようにして治療・介護するかということになります。
これらの医療の現場における担い手である医業経営者は、その収入の大半を診療報酬に依存しております。診療報酬とは、国によって決められる医療の対価たる報酬であり、この水準の改定は、厚生労働省により行われます。即ち、医業とは国家の意思の関与度合いが高い規制業種なのです。しかし、診療報酬の原資たる健康保険の担い手が少なくなることが見込まれる今日の状況で、診療報酬の水準の大幅な上昇を見込むことは困難です。如何にして現状の診療報酬の水準を基礎として、必要な利益を確保する経営を行っていくのか、医業にも実効化という経営者としての感覚が不可欠という時代が到来しているのです。
これからは、自分の医院の位置づけを明確にし、誰に対し何を提供するのかという計画を企画立案していかなければなりません。しかし、多くの医院では、直接の収益に結び付かない経営企画部門を備えているところは稀であり、医院の事業計画も十分ではなく、人材育成の遅れやソフトの蓄積のなさにもつながっています。
これからの医業経営に求められるものは、何よりも戦略です。
①経営環境を分析し、②事業領域を確立し、③事業戦略の選択・④策定を行った上で、⑤事業計画に落とし込み、実際に遂行していくことです。以下に各ステージの指針について具体的に説明します。
①経営環境を分析
経営環境の分析のステージでは、大きく外部環境(マクロ)と内部環境(経営資源)とに分けられますが、医院の置かれた現在の位置づけを、外部環境と内部環境の双方で理解することが重要です。
医院の理念を具現化する際、所与の外部環境に自らの経営資源を如何に適合させていくかによって、成果が決まるからです。患者や競合他院との関わりから、業界や市場の構造の中に存在する機会と脅威に対し、自院の強みと弱みを重ね合わせ、自院の経営上の課題を抽出していきます。
②事業領域を確立
事業領域の確立のステージでは、経営環境の分析の結果、発展させていけると確信のもてる領域、即ち生存領域を明確にしたうえで、その領域を確保するための「医院戦略」を確立します。戦略とは、環境の変化に適応するための方策です。
その中での事業領域とは、自院がどんな患者にどんな価値を提供するのか、つまり誰にどのように役立つのかを明らかにすることです。
顧客志向にすればするほど、自院の事業領域と職員の誇りとの摺り合わせが重要となります。
職員の自尊心や自己啓発、満足度や向上心の確保は重要な要素ですので、事業領域を職員に明示する必要があります。
③事業戦略の選択
事業戦略の選択のステージでは、具体的事業の選択を行いますが、提供サービス・市場分野の決定、効率的資源配分の決定、優位な競争の決定が重要となります。
戦略の選択では、自院の所属する地域の市場ニーズと、自院が提供する医療サービスの内容をマッチさせることです。
そのためには、自院が現在提供している医療サービス分野の市場規模、成長率、患者特性、医療サービスのライフサイクル、技術変化等を分析し、疾病ごとの成長要因を探索し、新しい医療サービスの方向付けを行うことが必要です。
④策定
事業戦略の策定のステージでは、中長期の患者・医療サービス戦略の実現を目標としますが、そのためには、新しい事業分野への進出と現在の事業分野からの撤退の二つが必要です。
新しい事業分野への進出の一番の課題は、事業ノウハウの蓄積と人材の確保です。
一般に医院には経営資源の蓄積が浅いため、事業戦略の展開に当っては、外部資源の獲得や活用を行う必要があります。新規に新しい事業分野に進出する場合には、充分に経営資源について自院の方針を検討しておく必要があります。
また成長や攻めだけの戦略を無理に進めると、思わぬ失敗を招く場合があります。
損失を小さくするために現在の事業から撤退することも必要となります。
地域の医院の連携によって地域医療の充実が求められるようになった時代においては、自院の診療科の在り方や入院医療の在り方等を考え、診療科の絞り込みや病床数の削減を積極的に実施することが必要となります。
⑤事業計画
事業計画の策定・遂行のステージでは、医院の進むべき分野を明らかにして、その実現のためにどのような対策をとるか、それを煮詰めた計画が事業計画です。事業計画というと、将来のことなど分かるはずはない、という人も多いですが、計画とは将来の予測ではありません。
予測なら当たり外れもありましょうが、事業計画は、1年後にはこのようになっていたい、そのためには現在このように取り組む、という目標であり計画であるのです。
言い換えれば、将来が分からないからこそ、計画を立てるのです。
分からないけど、このまま過去の延長で推移したのでは希望する方向へ進めない、あるいは進んだとしても目標達成ができないかもしれない。だから将来の目標を定めて、それに向かって計画的に対策を打っていくことが必要なのです。
計画とは、あるべき将来についての現在の意思決定の他なりません。目標と将来のための現在の行動がしっかりと計画されていれば、あとは実行し、計画実行後には成果を確認し、軌道修正して次の計画を行うのです。
これらの医業での経営戦略を進めて行けば、医院は経営力のある変貌すること間違いありません。医業経営者の皆さんが、自院の経営力を身につかられることをお手伝いすることが出来れば、これに過ぎたる喜びはありません。
法人化を検討されているドクターに向けて
国は現在、「地域包括ケアシステム」を構築することによって医療を刷新・対応する方針を打ち出しています。地域包括ケアシステムとは、出来る限り住み慣れた地域で在宅を基本とした生活の継続を目指し、医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスが連携して要介護者への包括的な支援を行う概念です。
これにより、地域において医療・介護の有機的なネットワークが構築され、今後増加する要介護認定者に対して、在宅においても有効な介護が受けられる体制を整備・運用する方針となっています。
このように、在宅患者や要介護者をネットワークによって必要な医療・介護を提供することが必要になってきますが、この地域におけるネットワークの中心となるのが医療法人です。
急性期医療・高度医療は主に公的病院がその役割を担ってきました。これに対し、医療法人は、診療所、療養型病院、老人保健施設等を運営しており、地域医療において、より患者に近い立場で医療・介護を提供しています。在宅への往診や訪問看護・介護を提供している医療法人も多く、今後果たすべき役割は大きいと考えられます。
しかし、医療法人の根本となる医療法人制度も問題を抱えています。
医療の提供は医療法における非営利原則に基づき実施されており、医療法人にも同様の規程があります。平成19年度より、この原則をさらに強化する改正が行われました。これによりそれまでの持分のある医療法人の設立が認められなくなり、今後は持分のない基金拠出型の医療法人の設立しか認められない制度に移行しました。
大阪府内には、3,514(平成23年3月末現在)の医療法人が登録されています。
しかし、経過措置として認められている旧来の持分のある医療法人がそのうちの3,228(91.9%)を占め、新制度への移行が進んでいない実態があります。
これには、税務上の取扱いについて問題があり、移行を進めることが困難であることが原因にあると言われています。
特に、基金拠出型の医療法人に移行することは従来の持分が否定されることになるので、経営者の経営努力による剰余金を持分に応じて所有することが出来ない点は、多くの医業経営者の心情と合わない仕組みとして捉えられ、結果として旧来の持分のある医療法人のままにするという選択を後押ししているものと推察されます。
しかし、税務上の問題点を先送りにして、移行が進まないとなると、持分を有する役員の死亡等によって相続税が課されることになる結果、持分のある医療法人の安定的な次世代への継承が困難となり、地域医療の理念が崩壊する可能性があります。
医療を安定的に持続させるためには、新制度下における法人化を検討する必要があります。社会福祉法人等や公益財団法人等、検討すべき法人は多くあります。
皆様の選択肢の一つとして、自院の法人化がある場合には、是非ともそのお手伝いをさせて頂くことで、最も賢明な方法をご提案させて頂きたいと思います。